失われた10年について

 年末失われた10年についていろいろと読んでいたら、年始になって参加した勉強会でたまたま失われた10年を扱っていた。ここらへんで一度自分なりにこの停滞についてまとめておこうと思う。

 1990代に度重なる財政出動が行われたが、経済成長にはあまり貢献しなかった。素朴なIS-LMでは財政政策が効果を発揮するが、オープンマクロの世界では財政政策は無効になる。ここでは「失われた10年」とは何か、また、その解決策とは何かについて述べる。

 IS-LMモデルでは近年の経済が説明できなくなり、日本で注目を集めたのはHayashi and Prescott [2002](The 1990s in Japan: A Lost Decade はネットで読むことが出来る。また、英語が面倒ならば『失われた10年の真因は何か』にほぼ同内容で日本語論文が収録されている)だろう。Hayashi and Prescott [2002]では1990年代の日本経済の低迷の原因を二つの点に求めている。第一にもっとも重要な点としてTFPの成長率が落ちたこと、第二に一週間あたりの平均労働時間が短くなったことが挙げられている。
TFP成長率の低下ということで潜在成長率と実質GNP(論文ではGDPでなくGNPを扱っている)の乖離はなく、潜在成長率そのものの低下なので実質と潜在成長率のギャップを埋めるマクロの政策は無効になる。そこで潜在成長率そのものを上げる構造改革が必要になってくる。

 ただHayashi and Prescott [2002]では具体的にどのような構造改革を行えばTFPが上昇するかはわからない。詳細は省くがその後の研究で示されたことはTFPの下がっている産業で雇用者が減らずに上昇し、高いTFPを示している産業で雇用者が減少しているのだ。
 また資金についてもTFPの低い産業への投資が80年代に引き続き行われている。おそらくいわゆる「追い貸し」というものが行われており、これによって不良債権処理が進まず、また、労働者をTFP低下産業に固定するという非効率な投資が行われ続けた。さらに「追い貸し」によって新規企業と衰退企業の入れ替わりの新陳代謝が鈍ったと考えられる。

 1990年代起こっていたことはTFPの低下であり、そのことは労働資源の非効率な配分と資本の非効率な配分によってもたらされていた。不良債権問題に関しては2002年からの「金融再生プログラム」で資産査定の厳格化により、金融機関は自己査定の後、金融庁が自己査定の妥当性をチェックし、妥当性が低いものには指導が入るようになった。これにより2002年3月期に主要行の不良債権比率が9.4パーセントあったのが、2005年3月期には3.1パーセントとなった。全国銀行ベースでも2002年には8.4パーセントであったのが2005年には4パーセントに、さらに2008年には2.4パーセントまで減少したことが『金融庁の1年(平成21事務年度版)』の金融再生法開示債権で見ることができる。しかし、労働市場の硬直化はいまだ解消されているとは言いがたい。
 小泉政権以降、「行き過ぎた市場原理主義」といった批判が見受けられたが日本に足りないのは市場メカニズムの活用であるように思う。